外を歩き回ると、不意に何気ない風景の一片が、自ずと立ち上がって見えてくることがある。景色と観測者との関係性が逆転するその瞬間は、社会を包みこむ様々な意識から外れる瞬間のようでもある。
リトグラフの表面的な性質を噛みしめて、外部から受容した感覚を解釈し編集し、表出する。矛盾はそのまま、未消化な部分は脚色や仮定を混ぜながら。版の浅はかさは、ある種の留保という態度を愚直にすることを可能にする。
There are times when an ordinary fraction of a scenery suddenly stands out in front of my eyes when I am on a walk outside. This moment of reversal, of the relationship between landscape and observer, is also like a moment where I am released from the various perceptions that envelop the society.
Relishing the planar quality of lithographs, I interpret, edit and present the receipted senses from the outside. Contradictions remain as they are; undigested parts are mixed with imagination and hypotheses. In a way, the shallowness of a print allows the simplicity of being reserved.
芦川瑞季の加算的版表現
版表現の特色は、制作プロセスを把握し、さらにそれらの工程が最終的な表現にどのように結び付くのかを計算することによって作品を完成させることにある。しかしながら、それらは全て作品を矮小化する事に加担するだろう。勿論、歴史的版画作品は、それを逆手に取り、小さなフォーマットから完全な小宇宙を作り出す。芦川瑞季はリトグラフという版技法で加算的に制作を行っている。自然と人(の戯画)という表現対象が、その予期せぬ効果が生まれる事を許容し、新しい加算的版表現として成立させているのである。